老兵の独り言

八尾市をはじめとする全国での左翼情報チェックと真正保守の陣営拡大を願っています。 国連をはじめとする人権条約を基礎とする国内法の点検と法破棄運動も行っています。

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伊勢雅臣先生の「国際派日本人養成講座」を転送します。
今回のテーマは、「国づくりのリーダーたち」です。伊勢先生には失礼ですが、果たして安心して皆様にご紹介できるかまず全文拝読いたしました。
南アジア、印パがテーマですから小生の理解は詳しくはありません。
そして安心してお勧めできると判断しました。  

国づくりのリーダーたち
 一国が繁栄するか、貧困と搾取に沈むのかは、
公に尽くすリーダーがどれだけいるかで決まる。

■1.腕の中で息を引き取った幼女ナディア■

 一人の幼女が、西水美恵子さんの腕の中で、静かに息を引き
取った。1980(昭和55)年、エジプト・カイロ郊外にある
「死者の町」。ここは邸宅を模す大理石作りの霊廟がずらりと
並ぶイスラムの墓地に、行き所のない人々が住み着いた貧民街
だった。

 ナディアの病気は、下痢からくる脱水症状だった。安全な飲
み水と衛生教育さえあれば、防げる下痢。そして糖分と塩分を
溶かしただけの飲料水で、応急手当ができる脱水症状。

 誰の神様でもいいから、ぶん殴りたかった。天を仰いで、
まわりを見回した途端、ナディアを殺した化け物を見た。
きらびやかな都会がそこにある。最先端をいく技術と、優
秀な才能と、膨大な富が溢れる都会がある。でも私の腕に
は、命尽きたナディアが眠る。悪統治。民の苦しみなど気
にもかけない為政者の仕業と、直感した。[1,p4]

■2.学窓に別れを告げ、貧困と戦う世銀に残ると決めた■

 米国プリンストン大学で経済学を教えていた西水美恵子さん
は、この年の夏から始まるサバティカル(研究休暇)の一年を
世界銀行(世銀)の研究所で過ごしていた。西水さんに好待遇
で好きな研究をやれるば良いと誘ったチェネリー副総裁は、一
つだけ条件をつけた。「一国でもいい。発展途上国の民の貧し
さを、自分の目で見てくるように」というものだった。

 そこで、世界銀行で活躍しているプリンストンの教え子が、
エジプトに調査に行くというので同行したのだった。

 世銀は、国連の諸機関のように寄付金に依存する援助機関で
はない。加盟国の国民から「世銀債」のような形で市場から資
金を集め、発展途上国の良い国づくりのために、できるだけ安
く貸す。正真正銘の金融機関なのである。

 西水さんは、帰りの機内で一睡もできずに、自分は何をする
ために経済学を学んだのかと、悩んだ。飛行機の車輪がドシン
と音を立てて滑走路に接した瞬間、学窓に別れを告げ、貧困と
戦う世銀に残ると決めた。

 チェネリー副総裁に決心を伝えると、「薬が効きすぎたかな」
と笑いながら、「ナディアの死を無駄にしないように」と言っ
て、こう続けた。

 世銀の使命は、貧困のない世界をつくること。この使命
を背負う仕事の究極は、正義の味方になることだ。政治力
のない貧民のために正しいことを正しく行う、勇気あるリ
ーダーたちの味方になる。この精神を本気で貫かないと、
世界一流の知識や技術の提供が無駄になる。融資は途上国
の借金を増やし、国民を苦しめるだけに終わる。やる気が
あるようだな。[1,p5]

■3.「ご馳走」は一杯の水■

 それから15年後、世銀で西水さんは南アジア地域を担当す
る局長となったいた。担当国の一つにパキスタンがある。

 インドとの国境問題が起こっていたカシミール地方に行って
みた。人々は険しい山脈の中腹に段々畑を作って住んでいる。
目が眩みそうな谷底には川が流れているが、険しい山肌に陽が
遮られて日照時間が極端に短く、農作には適さない。

「貧しくて何もないけど、どうぞ」と歓迎してくれた村人たち
は女子供、老人ばかり。男衆は紛争に命を落としてなければ、
兵隊か出稼ぎで留守。

「ご馳走」として出してくれたのは、コップ一杯の水だった。
片道に1時間かかる裏山に湧き出る泉の水で、安心して飲める
のはここだけだという。女たちは、大きな水瓶を一つは頭に載
せ、一つは腰脇に抱えて、往復2時間の水汲みを日に三度行う。

 村長格の老人は、パイプを引いて泉の水を村まで引く計画を
立てたが、「政府には武器を買う金はあっても我らのための金
はないらしい」と言った。皆で少しずつ貯金をして、いつかは
必ず水道を引く、という説明に、村人たちの目は天国の夢を見
ているようだった。

■4.「私の心の故郷もあの山のむこうです」■

 1999(平成11)年9月、西水さんはパキスタン首相官邸に入っ
た。大理石をふんだんに使い、化粧室にはシャンデリアがぶら
下がる。広大な敷地にはポロ競技場まである。この官邸一つで、
いったいいくつの村に電気や水道を引けるのかと計算しては、
西水さんは怒り心頭に発していた。

 官邸の主人公がシャリフ首相で、その「ファミリー」は架空
のプロジェクトをでっち上げては、国営銀行に融資させ、その
債務を不履行にしている。

 昼食の後、人払いを頼むと、シャリフ首相は居間に誘ってく
れた。その開かれた窓からは、ヒマラヤへとせり上がる山々が
見えた。カシミールの血を引く首相は、あの山のむこうが自分
の故郷だと目を細めた。

 西水さんは「私の心の故郷もあの山のむこうです」と、日に
6時間も水汲みにかける村の事を語った。首相はハンカチで目
をぬぐい、「ミエコの故郷に水道を贈ろう」と言った。

 西水さんは断った。「首相には、たったひとつの水道より、
もっと大きな事を成す力がある」。国営銀行はいつ破産しても
おかしくない状況だ。その時困るのは金持ちではなく、カシミ
ールの村人たちのように水道を引くためのささやかな貯金に人
生の夢を託す多くの民が犠牲になる。

 人様の大切な金を貸す銀行家として進言する。・・・トッ
プリーダーの一族が債務不履行である限り、銀行界の立て
直しは不可能と判断する。恐れ多くも人の上に立つ指導者
は、身辺を清め、民の模範となるべく努力すべし。[1,p94]

 長い沈黙の後、首相は言った。「本物の男として約束する。
家長としても約束する。一ヶ月後までに、全額を精算する」
西水さんの目にも涙が溢れた。

■5.「ムシャラフは立派な指導者。彼に国運を賭ける」■

 一ヶ月後、首相の「ファミリー」が借金の返済を始めたとい
う噂が広まった。そんな矢先に、クーデターが勃発した。シェ
リフ首相が、自身の権力乱用に楯突いていた陸軍参謀総長ムシャ
ラフ将軍を海外訪問中に解任した事がきっかけとなった。将軍
を信奉する軍幹部が、逆に首相を追放したのだった。

 世銀の部下たちは早く新政権に参上してくれと頼んだが、西
水さんは、民の声を聞くことが大事と、草の根を歩き回った。
草の根の声は「ムシャラフは立派な指導者。彼に国運を賭ける」
だった。

 クーデターの翌年、ようやくムシャラフ将軍と会うことになっ
た。将軍は元首相官邸の贅沢を嫌い、たまに公務で使うだけだ
という。西水さんは思わず「気に入った」と手をたたいた。

 翌日、「待ちくたびれた」と微笑んで手を差し出すムシャラ
フ将軍に、西水さんは「理由はどうあれ、民主主義のたどる紆
余曲折の学習を軍政権が切断することは邪道。だから失敬した」
と言った。将軍は「はっきり言ってくれてうれしい」と本当に
嬉しそうな顔をした。

■6.「敵は貧困。戦略は good governance(正しい統治)」■

 そんな挨拶の後、将軍は「知っているつもりだったが」と翳
りのある口調で続けた。想像を絶するほど深刻な経済の破綻に
驚いた。組織制度化され、マフィア化した汚職のひどさにも驚
いた。「いったいどこから手をつけたらいいのかと、軍人キャ
リア35年目にして、初めて動揺した。」

 西水さんが「改革は戦争でしょう」と応ずると、やはりそう
かと頷く将軍に「ならば将軍の専門ですね。敵は、戦略は、作
戦は、将軍?」と畳みかけた。将軍は答えた。

 敵は貧困。戦略は good governance(正しい統治)。我
が国が抱える国体持続の長期リスクは、貧困に尽きる。政
府、民間、あらゆる部門から汚職を追放せねば、このリス
クの解消は不可能だ。[1,p102]

 しばらく、互いの草の根体験を比べあった。将軍は貧しい女
性の苦労も熟知していた。母親と子どもたちの死因の筆頭は、
かまどの煙による呼吸器官炎症。電気が通じれば、その死に神
を追放できる。水道を引けば、飲み水を経由する伝染病をなく
し、さらに女性が水汲みに費やす毎日数時間を省き、家族の衛
生管理や読み書きを習う時間を生む。しかし、電気も水道も高
額の賄賂なしには引いてくれない。

 貧しい人々のたった一つの希望が教育だが、学校に在籍して
給料だけは貰いながら、一向に姿を見せない「幽霊教師」。徴
収した税金を山分けする税務署。賄賂無しでは動いてくれない
警察、権限を悪用して民間企業の自由な経済活動を妨害する国
家公務員。

 軍人らしく、将軍は戦線を絞って、そこから勝利の連鎖反応
を狙うという。まず選ばれたのは国民がすぐに肌に感じられる
教育・公衆衛生医療改革、民間企業が改革の成果を早めに糧と
出来る銀行改革や税務署改革。

■7.「国際社会が敵になるとは思わなかった」■

 各分野の専門知識と国家再建の志を持つ人々を将軍は集めて、
目覚ましい改革を始めた。しかし、国際社会の目は冷たかった。
長年、援助から甘い汁を吸ってきたパキスタン政府、そして
1998年のインドに対抗した核実験、翌年の軍事クーデターと重
なったのだから、無理もなかった。

「国際社会が敵になるとは思わなかった」と言う将軍に、西水
さんは「信用をここまで落としたパキスタンの過去が敵なのだ。
その過去と戦う現場を、国際社会に見せねば」と言った。

 西水さん核実験以来滞っていた「パキスタン援助国際会議」
を再開しようと提案した。それも従来のパリから、首都イスラ
マバードに開催地を変更して、改革の現場を見せようと言った。
さらに西水さんは、世銀は銀行部門構造調整改革に3億ドルの
融資を考えている、と言って、将軍を驚かせた上で、この計画
を公表すれば、氷は必ず解けはじめる、と説いた。

 翌年3月イスラマバードで開催された「パキスタン援助会議」
は、草の根訪問も組合せ、改革に直接携わる勇士のセミナー形
式だった。開催まもなく会議のムードが半信半疑から驚きへと
変わっていった。

 中央銀行総裁を筆頭に銀行改革同志の発表が終わったとき、
日本大使が手を挙げた。「素晴らしい。総裁、この仕事が終わっ
たら、我が国へ改革をしに来てください」と和やかな笑いを誘っ
た。

■8.ムシャラフ大統領とシン首相■

 ムシャラフ大統領のリーダーシップのもと、国内改革が進み
つつあったパキスタンにとって、もう一つの重要課題がインド
との和解であった。カシミール地方をめぐって、両国はすでに
3度も戦争を行っていた。

 西水さんは、1998(平成10)年、後にインド首相となるマン
モハン・シン氏と会っていた。その時に、シン氏は「我が国が
抱えるリスク、それは貧困に尽きる」と、ムシャラフ将軍とまっ
たく同じセリフを口にしていた。

 西水さんは、ムシャラフ大統領と初めて会ったときに、こう
勧めた。

 将軍、いつか必ずマンモハン・シン氏とお会いにならな
ければなりません。印パ間の信頼を築くために、両国の平
和と世界の安全保障のために。[1,p18]

 インドと聞いただけで嫌な顔をする側近をしり目に、シン氏
のことをもう少し教えてくれと、将軍は真剣な眼差しで身を乗
り出してきた。

 両氏の会談は、2004(平成16)年秋、ニューヨークの国連総
会で実現した。二人のこぼれるような笑顔を見て、西水さんは
涙をこぼした。

 翌年春、カシミールで西水さんを泊めてくれた女性から、人
伝てに伝言があった。

 もう水道は夢ではない。平和がくる。あなたが歩きたがっ
た街道がよみがえる。4月7日、停戦ラインを越える定期
バスが運行を開始する。戦争で破壊された橋を直し、荒れ
た道を修理する突貫工事に、寝るのも惜しんで働く村人の
喜びの歌声が、山間に日夜響いている。[1,p39]

 ムシャラフ大統領とシン首相のリーダーシップで実現した、
カシミール問題解決への第一歩だった。

■9.「ミエコの国が羨ましい」■

 シン首相は、ある時、西水さんにこんな事を言ったことがあ
る。

 多様なルーツの民族が今はひとつにまとまったミエコの
国が羨ましい。[1,p283]

 我が国土には、古代からさまざまな民族が流入してきた。従っ
て、異民族が土地を求めて戦いあい、勝った方が負けた方を階
級差別し、支配搾取するという世界によくある歴史になっても
おかしくはなかった。

 それがやがて渾然と一つの共同体にまとまっていった。江戸
時代には世界史に残る長期の平和が実現し、またその蓄積をもっ
て明治以降、近代国家として急速に発展した[a]。

 それは、西水さんを世銀に誘ったチェネリー副総裁の言う
「正しいことを正しく行う、勇気あるリーダーたち」が、我が
国の歴史の中で数多く登場してきたからである。そしてそのリ
ーダーたちを生み出したのは、国家の中心にあって常に国民の
安寧を祈る皇室の無私の精神だった。[b]

 一国が繁栄するか、あるいは貧困と搾取に沈むのかの分かれ
道は、国家公共のために尽くそうとするリーダーをどれだけ生
み出したかにかかっている。そして我が国が、今後も豊かで平
和な独立国として栄えていけるかどうかも、この点にかかって
いる。西水さんの世銀における23年間の経験は、決して他人
事ではない。
(文責:伊勢雅臣)


 
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